偏頭痛 サプリ

大田稲荷大明神

船橋市民のわたしが

市川の町を歩けばいつも余所者で

さらに方向音痴の性向も手伝って

夕暮れになると

決まって迷子になる

ある日、中山の住宅街を歩いているうち

どっちが法華経寺で

どっちが木下街道で

どっちへ行けばうちに帰れるのか

途方に暮れてしまった

道は途中で袋小路になったり

そもそも大道へ抜ける道も見つかりそうにない



すっかり日は落ちた

すると小路の向こうから

提灯の明かりが揺れ揺れ近づいてくる

提灯を手にしていたのは

―――――狐だった

狐は矢羽根模様の和服を着ていて

紺の足袋に草履を履いていた

そして、聞く

・・・・どちらへ参る?



家へ帰りたいなどとは

言ってはいけない気がして

・・・・法華経寺はどっち?

と、聞く



狐は言った

土産は持ったか

手ぶらで行くなよ



夜にお寺さんを訪ねるつもりはなく

提灯の明かりに入れてちょうだい

と頼んだ



灯明料は三文

おまえのクロスと代えてやってもいい



少しばかりぎょっとして

わたしのロザリオどうするの?

と聞くと

寺の向こうの病院の患者に

持って行ってやりたいのだ

喜ぶぞ

神も仏も捨てたと言っていたから

毎日毎日、テレビで連ドラ三昧で

家族も見舞いに来ぬと言う

カラオケは二十年も昔の曲のままだと



明神さまは拒まれないの?



わたしはただの畜生だ



滅相もございませんっ

わたくしはただの労働者でござりまする

会話をしながら結局

狐とわたしは連れだって歩いていた

やがて車のヘッドライトが近づいてきて

遠くに車道の気配がする

住宅街のキッチンの匂いがする



いつの間にか

―――――狐は消えていた