偏頭痛 サプリ

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インコのシマヅミサトがまた、キーキー鳴き声を上げている。

木城さんがシマヅをかまっているからだ。

シマヅは怒っているのだ。

木城さんは鉛筆のお尻をかごの間から差し込んで、かみつかせようと

わなを張る。

人間だったら怒っているのなら無視をするものだけれど、インコのシ

マヅは、まんまとかまわれてしまっているわけだ。

それも毎度毎度。

鉛筆のお尻をかむという宿題をたったひとりで解決しようとするかの

ように。



お父さんは小ぢんまりと不動産会社をやっていて、木城さんはいつも

やってくる営業マンだ。

お父さんは不動産屋。

ビルの空き部屋をリノベーションとかいうお化粧をほどこして、新し

い借り主を探すのだ。

会社は商店街の路面にあって、お父さんは僕が小学校四年生になった

頃から、

「ここで宿題を片づけてもいいよ。」

と言うようになった。

お父さんは、仕事をしているときはにこにこと愛想をふりまいたり、

難しい顔をして電卓を叩いたり、僕のことをかまってくれることもな

いけれど、会社で社員さんたちとたわむれたり、シマヅの世話をし

たり、そして、宿題をやったりすることを許してくれていた。

ここで僕は一旦、学校の先生頼みの僕としゃ断して、会社のデスクに

問題集や教科書を広げて自分で宿題を解くのだ。

会社の営業の片岡さんや岩井さんは、ときどき、

「どれどれ?」

とのぞきに来るけど、僕はかまってほしくない。

それに教えてほしくたって、不動産屋さんに小学校の勉強の、いった

い何を聞けばいいというのだろう。

学校の同級生の幾人も塾に行っているけど、僕的に、

「小学生で塾???」

なプライドもあって、お母さんには、

「塾には行きたくはない。」

と言ってある。



インコのシマヅミサトと言う名前はお父さんがつけた。

お父さんは演歌歌手の島津みさとが好きなので、愛するペットの名前

はシマヅミサト。

お父さんの好みが島津みさと、ということは、あまり美人じゃなくて

もよくて、芸  が達者で、そしてたぶん、「お高く」ないところが

いいのだろう。

そういえば、お父さんの恋バナを聞いたことはあまりない。

島津みさとを語るように、高校生や大学生と同じく、タレントやアイ

ドルや歌手  や俳優さんたちに託して好みを語るくらいのことだ。

そしてそれは、

「さすが、お父さん。」

と言うべき処世術。

お母さんという嫁がいながらよその女性の話を得意げにすることは、

あまりカ  ッコいいことではないからね。

お母さんは陰でシマヅを「姉様インコ」と呼んでいる。

お父さんの「彼女」への、せいいっぱいのほめ言葉らしい。

実際、お人形よりずっと会社にそぐわっていて、会社を訪れるお客さ

んも、一  回は話題にしてゆく。

そこが、ただのお人形とはわけが違う。



木城さんはある日、桜の木っ端を僕にくれた。

「祐ちゃん、桜の木、あげるよ。」

「この前の工事の大工さんにもらったんだ。」

「大工さんは木肌を見ただけで何の木かわかるんだよ。」

木城さんは言った。

桜は、赤みを帯びていた。

「木の皮はついていないの?」

「皮は、最初からはがされるんだよ。」

木っ端は、十センチメートルほどの正方形で厚みが一センチ五ミリほ

どある。

叩くとコンコンと音がして、まったく堅くて一途なヤツだった。

この木をいったい、どこに使ったのだろう。

都会っ子の僕は木の家をよく知らない。

お母さんのクロゼットの扉もこんな一枚板ではなく、薄板を張り付け

た中身が空洞のちゃちいヤツで、それが人の実用と言うものなのだ

ろうということはよく判っている。

それだからこそ、この一途な桜をなんのために使うのか、今の僕には

謎でしかない。

一週間ほど机の上に立てかけて、眺めてはため息をついていたのだけ

れど、そのうち、その桜の木っ端を妖怪カードや、ガチャガチャのお

もちゃや、余った筆箱や、コレクションのキーホルダーや、漫画の付

録と一緒に箱にしまった。

お父さんにもお母さんにも見せないでおいたんだ。